エンタメ契約の世界

芸能、アニメ、ゲーム等のエンタメに関する契約について色々と書いているブログ。

CM等の広告出演契約の構造(三浦知良選手のCM問題の場合)

三浦知良選手が大正製薬の「リポビタンD」のCM等の広告出演期間中に、サントリーの「セサミンEX」のCM等の広告に出演したことが競合禁止規定違反になるかどうかで問題となりました。その件についての前回の記事は以下のとおり。


keiyakusho.hatenablog.jp



この問題は、最終的に裁判となり、競合禁止規定に違反せず問題ない・・・即ち大正製薬の敗訴という形で決着しましたが、この問題を通じて色々と興味深いことが見えてきましたので、そういったことを書かせて頂きたいと思います。


CM契約の構造

大正製薬の「リポビタンD」のCM等の広告に三浦知良選手が出演するための広告出演契約は、次のような契約関係になっていたようです。

「大正製薬と電通との間での広告出演契約」
「電通と電通キャスティングアンドエンタテインメントとの間での広告出演契約」
「電通キャスティングアンドエンタテインメントとハットトリック(三浦知良選手の所属プロダクション)との間での広告出演契約」


広告主が大正製薬であり、電通はいわば代理店です。そして電通キャスティングアンドエンタテインメントは、代理店から依頼を受けてキャスティングを行う会社です。ハットトリックは、三浦知良選手の広告管理等を行うプロダクションです。


ある程度大きい広告案件ですと、通常、広告主が直接タレントやスポーツ選手の所属プロダクションと広告出演契約を締結するということはありません。CM放送をするような広告案件であれば、上場企業等の大企業が広告主である場合が多く、そういう場合は、だいたい間に電通のような広告代理店が入ります。


尚、CM放送等を行わない比較的小規模の広告出演案件(ウェブ広告のみとか、店頭広告のみ等)の場合は、広告主とタレントやスポーツ選手の所属プロダクションが直接広告出演契約を締結する場合もありますが、事例としては比較的少ない方だと見受けます。

広告出演契約における中間業者

CM等の広告出演案件は、通常、電通のような広告代理店が広告主と、プロダクションとの間に入ると上記で書きましたが、電通や博報堂等の日本トップクラスの広告代理店の場合は、さらに下にキャスティング会社等が中間業者として入ってくることが多いです。



今回、電通キャスティングアンドエンタテインメントという中間業者が入っております。上記のとおり電通や博報堂等の大型広告代理店であればこういう中間業者が入ることが一般的であり、この大正製薬の事例では電通キャスティングアンドエンタテインメント1社ですが、2社・3社と中間業者が入ることも見受けられます。


そうした中間業者が複数入ってくる場合というのは事例によって事情が異なるので、その目的は単に「中抜き」というものではなかったりしますが、この部分は非常に複雑な問題であり、またこれを書きすぎると私も守秘義務に反してしまうところがありますので、この部分についてはここまでの記載とさせて頂きます。

それぞれの広告出演契約の性質

尚、この事例でいうところの大正製薬と電通との広告出演契約は、「三浦知良選手を大正製薬の「リポビタンD」のCM等の広告に出演することの取り付けを行うことを依頼する契約」といった性質のものになってきます。


そして、電通と電通キャスティングアンドエンタテインメントとの間での広告出演契約は、「三浦知良選手が大正製薬の「リポビタンD」のCM等の広告に出演することの所属プロダクションとの契約締結や契約金の支払いといったキャスティング業務を依頼する」といった性質のものになってきます。


最後に、電通キャスティングアンドエンタテインメントとハットトリックとの広告出演契約は、「三浦知良選手が大正製薬の「リポビタンD」のCM等の広告に出演することを承諾する」という性質の契約になります。



このような一連の契約締結をもって、三浦知良選手は大正製薬の「リポビタンD」のCM等の広告に出演することとなるのです。尚、上記それぞれの契約書は、広告対象商品、広告使用範囲、競合禁止規定等の内容の整合性がとれるよう一致させます。その点は、私の事務所サイトの広告出演契約書のページでも触れておりますが、契約書作成実務上、とても重要な点です。



今回は広告出演契約の構造を簡単に書きましたが、次回は、三浦知良選手の今回のCM問題で最も問題となった競合禁止規定について色々と書いていきたいと思います。