サッカーの三浦知良選手が出演していた大正製薬の「リポビタンD」のCMと、サントリーの「セサミンEX」のCMについて、三浦知良選手がサントリーの「セサミンEX」のCMに出演することは大正製薬との間で締結された広告出演契約に定める競合禁止規定に違反するのではないかということで紛争が生じ、裁判になりました。
時系列
この事案、簡単に時系列は次のようになっております。
1.2016年9月、三浦知良選手が、大正製薬の「リポビタンD」のCM等の広告に出演する旨の契約が締結され、その後CM放送等される。
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2.2020年7月~10月、三浦知良選手の大正製薬との広告出演契約に、「健康食品」を新たに広告出演対象範囲に含める旨の協議がなされるが、金額面で折り合いがつかず没交渉となる。
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3.2020年11月、三浦知良選手がサントリーの「セサミンEX」のCM等の広告に出演する旨の契約が締結され、その後CM放送等される。
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4.2021年1月、大正製薬が、三浦知良選手が大正製薬との広告出演契約期間中にサントリーの「セサミンEX」のCMに出演することは、大正製薬との間で締結された広告出演契約に定める競合禁止規定に違反するとして、東京地裁に提訴するが、競合禁止規定に違反しないとして大正製薬が敗訴。
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5.2023年1月、大正製薬が東京高裁に控訴するが、結論は変わらず競合禁止規定に違反しないとして大正製薬が敗訴。
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6.大正製薬が上告をしないということで、裁判終結
結論
上記のように、最終的には、三浦知良選手が大正製薬の「リポビタンD」のCM等の広告に出演するための広告出演契約書には、「錠剤」の文言が商品対象範囲や競合禁止規定の範囲に明記されておらず、また健康食品を商品対象範囲に追記しようとした上記の一連の交渉経緯を踏まえて、三浦知良選手がサントリーの「セサミンEX」のCM等の広告に出演することは競合禁止規定違反にならない。即ち問題はないというのが裁判所が下した結論です。
このような結論自体は妥当なところだったと思います。大正製薬もおそらくこの結論はある程度予想できていたのではと思われますが、社長等の創業家一族がどうしても我慢ならないということで提訴に至ったのではと推測できます。
この問題から検討したいこと
この三浦知良選手のCM問題については、既に色々な記事が出ており、それらの記事のうちとても優れている内容のものがございますので、ここでは細かく解説等はしませんが、この問題を通じて広告出演契約について、色々と興味深いことや検討してみたいことがいくつもございますので、それらを何回かに分けて書いてみたいと思います。
興味深いことや検討したい事項
私自身、業務上、タレントやスポーツ選手の広告出演契約書を非常に数多く作成しております(私の事務所サイトの広告出演契約書のページ)。この15年間で、もう100件以上は手掛けておりますが、正確な数は数えておりません。
そうした広告出演契約書を仕事柄多数つくっている者として、気になる点がいくつかございます。
1.契約の当事者
本件大正製薬の広告出演契約は、大正製薬と電通、電通と電通キャスティングアンドエンタテインメント、電通キャスティングアンドエンタテインメントとハットトリック(三浦知良選手の所属プロダクション)との間での契約をするという形態になっております。
シンプルにやるならば、大正製薬と契約をした電通がそのまま三浦知良選手の所属プロダクションであるハットトリックと契約をすれば良いのですが、間に「電通キャスティングアンドエンタテインメント」を挟んでおります。この点、実に興味深い点なので次回はまずこの点について書かせて頂きます。
2.競合禁止規定の考え方
今回は、「錠剤」が競合禁止規定の範囲に含まれるのかどうかが争点となりましたが、実際問題として、実務上、広告出演契約における競合禁止規定の設定は非常に重要です。かなりの駆け引きが行われた上で、契約締結となることも多いので、この点を、今回のCM問題をベースに色々と書いてみたいです。
3.CMギャラ
タレントやスポーツ選手がCM等の広告に出演する際のギャラのお話しですが、今回の三浦知良選手の「リポビタンD」のCM等の広告出演ギャラは5500万円だったとのことです。こうしたCMギャラの金額をどう設定するのかというお話も、このCM問題を通じて色々と書かせて頂きたいです。
上記3点について、次回以降、色々と書いていきたいと思います。