エンタメ契約の世界

芸能、アニメ、ゲーム等のエンタメに関する契約について色々と書いているブログ。

第2条(個別契約) 業務委託基本契約書

第1条(契約の目的)までのおさらい


土屋アンナさんの舞台降板騒動が過熱し、色々とニュースも入ってきましたので、そちらの件について色々と考察等をしておりましたが、本来書いていた業務委託基本契約書の作成ポイントを再開します。これまで、第1条(契約の目的)を書くところまでを取り扱ってきました。






これまで取り上げてきた内容をまとめて契約書の形にすると次のようになります。

業務委託基本契約書
「株式会社○○○○(以下「甲」という)と株式会社○○○○(以下「乙」という)は、甲が乙に対し業務を委託する際の基本契約事項に関して、以下のとおり契約(以下「本契約」という)を締結する。」

第1条(契約の目的)
本契約は、甲が業務を乙に対し委託し、乙がこれを受託して遂行することに関する基本条件及び甲乙間の権利義務関係等を定めることを目的とします。

今回は、これに続く第2条をどのように記載するかについて、考えてみたいと思います。

第2条に記載すること

     ____ 
   /      \ ( ;;;;( 
  /  _ノ  ヽ__\) ;;;;)  はぁー   
/    (─)  (─ /;;/   第2条・・・・
|       (__人__) l;;,´       
/      ∩ ノ)━・'/    何を書いたらいいかさっぱりわからねえっす
(  \ / _ノ´.|  |     ちなみに、契約書の条文の順番って何か
.\  "  /__|  |      意味とか法則とかあるんですかねえ。
  \ /___       






       / ̄ ̄\
     / ノ  \ \  なるほど、契約書の条文の順番についてか・・・
     |  (●)(●) |   一応、だいたいはこういった順番になるというのは
    . |  (__人__)  |   あるので、それはまた別の機会に検討をしてみる。
      |   ` ⌒´  ノ   
    .  |         }
    .  ヽ        }   それと、第2条だが、ここでは個別契約について
     /⌒   ー‐  ィ  ヽ  規定することが比較的一般的だな。
    /      ,⊆ニ_ヽ、  |
   /    / r─--⊃、  | 基本契約というからには、個別契約が存在することとなる。
   | ヽ,.イ   `二ニニうヽ. | したがって、個別契約とは何かということ等を規定する
                  必要がある。契約書全体に係る内容だから、第2条等
                  比較的前の方で規定されやすい。




第2条は、一般的には「個別契約」に関することを規定します。業務委託基本契約は、基本契約ですので、基本契約締結後に、別に個別契約というものを締結することになります。そうした、個別契約に定める内容や、そもそも何をもって個別契約の成立とするのか、そして基本契約と個別契約の関係性といったことを第2条(個別契約)に定めることになります。


上記AAでも疑問として呈されていましたが、契約書の条文の順番というものは、私も最初の頃はよくつかめない時期があり、契約書の雛形等をみながらだいたいこんな形かなという感じで探っていました。今は、自分なりのフォーマットに基づいて契約書の条文の順番を構成しております。これについては、また別途詳細に考察してみたいと思いますが、概ね、総則的な規定(契約書の全体像に係る規定)が最初の方にくる傾向にありますし、実際それがしっくりきます。第1条の「契約の目的」や第2条の「個別契約」は、そうした総則的な規定の最も顕著な例となります。


第2条(個別契約)の記載内容


さて、それではまず実際に第2条(個別契約)に記載する内容を下記に記載していきます。

1.甲が実際に業務を乙に対し委託する場合、甲及び乙は、対象となる委託業務(以下「本委託業務」といいます)の具体的な取引条件(業務内容、業務実施期間、契約形態、対価、支払条件等)を定めた個別契約(以下「個別契約」といいます)を、甲乙間で別途締結するものとします。
2.個別契約は、本契約に基づく個別契約である旨を記載した契約書面に、甲及び乙双方の記名捺印又は署名がなされた時点で成立するものとします。但し、個別契約の締結は、甲が乙に対して発行する本委託業務に関する発注書をもって代えることができるものとし、この場合、甲が乙に対し発注書を発行し、乙がその内容を承諾することで個別契約が成立するものとします。
3. 本契約は、個別契約の全てについても共通して適用されるものとします。但し、本契約と個別契約の規定が相反し、又は矛盾する場合は、個別契約の規定を優先するものとします。
4.個別契約が成立していないにも関わらず、乙の見込みにおいて行った本委託業務の準備及び実施等については、甲は一切の費用負担及び責任を負うものではありません。


全部で4項ですね。第1項から順に解説をしていきます。


第1項
まず第1項では、委託する業務の具体的な条件は別途個別契約で定めますということを規定しております。したがって、この業務委託基本契約では、委託する業務の具体的な内容や対価等は規定しないことになります。


業務委託基本契約を結ぶ場合は、2つのケースに大別できるかと思います。一つは、具体的な業務委託の条件を定めるのがまだ先になりそうだから、ひとまず基本契約を結んで大筋で合意をしておこうという場合。もう一つは、委託する業務が複数発生することが想定されるため、それら複数の委託業務に共通して適用されるような契約事項定める場合です。


変な話、業務委託の具体的な条件が明確で、しかも単発の業務委託であるということであれば、業務委託基本契約という体裁にはせずに、「ウェブサイト制作業務委託」といった形で、業務委託の具体的な内容や対価も全て一つの契約書に規定してしまいます。業務委託基本契約という体裁をとるからには、別に個別契約を締結し、その個別契約の中で具体的な条件等を定めることになりますので、そういったことをまずは第1項に規定する形になります。



この第1項は、次のような記載にすることもあります。

1.甲が実際に業務を乙に対し委託する場合、甲及び乙は、対象となる委託業務(以下「本委託業務」といいます)に関する次の具体的な取引条件を定めた個別契約(以下「個別契約」といいます)を、甲乙間で別途締結するものとします。
 ①本委託業務の具体的な内容。
 ②本委託業務の成果物及び納入期日。
 ③契約形態(請負又は準委任)。
 ④本委託業務の対価及びその支払条件。
 ⑤その他本委託業務を遂行するために必要な事項。

私なんかは、上記の箇条書きスタイルをすることの方が多いですが、このあたりは好みの世界でしょうか。次に第2項ですね。


第2項
第2項では、個別契約がどのように成立するかということを明確にしております(何をもって個別契約の成立なのかということ)。通常は、個別契約書面を双方で取り交わす(双方の署名又は記名押印をする)ことで個別契約成立とします。但し、発注書や注文書、見積書等のやり取りによって個別契約成立とする場合もあり、実際に、この第2項の但し書きでは、委託者が受託者に交付する発注書をもって個別契約の成立とする旨を規定しております。


個別契約の成立は、通常の契約書の取り交わしと同じようなスタイルが望ましいですが、業務の利便性等を考慮して、もう少し簡便な形で個別契約成立とさせることが実務上では多いです。したがって、そのような実務上の利便性を考慮して、個別契約の成立を通常の契約書の取り交わしよりも簡便な形にすることを契約書で規定することは実際に多く見受けられます。


尚、個別契約の成立の有無をめぐっては色々と参考になる裁判例がありますので、それはまた近いうちに別で取り上げてみたいと思います。


3項
3項は、基本契約と個別契約の規定が競合又は相反する場合、個別契約の内容を優先させる旨を規定しております。通常、基本契約の後に個別契約が締結されますので、後の事情の方を優先して、個別契約の方を優先させることになります。但し、基本契約の一部条項については、個別契約でも変更することはできない旨を規定する場合もあったりします(しかしそういった規定をすることは結構レアです)。


4項
長くなってきたので、最後は駆け足ですが、この4項に規定する内容はあまり多くは見かけないとは思います。念のために規定しているという意味合いが強いので、絶対に必要な条項かといえばそうではないのですが、後々の紛争の可能性を少しでも減らすことを考えるならば、規定しておいても良いかなと思う条項です。ちなみに、受託者側目線で考えると、受託者側に不利に働く可能性のあるこの条項は入れないですね。



以上が、一通り第2条(個別契約)についての解説となりますが、この第2条(個別契約)では、特に第2項の個別契約成立の成否について、まだ掘り下げられる要素がありますので、そこを掘り下げてから、次に第3条という流れになるかなと思います。