エンタメ契約の世界

芸能、アニメ、ゲーム等のエンタメに関する契約について色々と書いているブログ。

損害賠償条項について 舞台出演契約書

これまで、当ブログでは、5回にわたって土屋アンナさんの降板騒動について、関連する契約書(出版契約書、原作使用契約書、舞台出演契約書)を通して諸々考察をしてきました。



そして、この土屋アンナさんの舞台降板騒動は、舞台製作会社が土屋アンナさん本人と所属プロダクションの両者を相手に東京地方裁判所に提訴するという事態になりました。これから法廷で争われることで、本件について色々と不明だった部分等も明確になっていくのであろうと思われます。




土屋アンナさんの出演契約書の損害賠償条項

今回のこの提訴に関するニュースの中で、一つ気になるニュースがありました。


「ペナルティー有無」出演契約書には明記なし
2013年8月10日 06:00




上記のスポニチさんの記事に次のような記述があります。

出演契約書には「指示に従って、本公演への出演及び稽古を行う」と明記。これに違反した場合、高橋氏側は契約を解除できると条項にある。だが、土屋側へのペナルティーなどがあるかどうかは書かれていない。

契約書にペナルティー・・・いわゆる損害賠償条項があるのかどうかについては、このスポニチさんの記事だけが取り上げております、私にはこのことが結構引っかかります。


上記スポニチさんの記事によれば、舞台製作会社と土屋アンナさんの所属プロダクションとの間で交わされた出演契約には、契約に違反した場合については、契約を解除することができるということのみが規定されており、損害賠償云々の条項がないとのことです。これって、契約書としては結構珍しいです。


といいますのも、通常、このような出演契約書においては、契約違反があった場合については、契約の解除とともに損害賠償が行えるということがセットで規定されているからです。たとえば次のような規定になります。


乙(出演者の所属プロダクション)が本契約条項のいずれかを履行しない場合又は本契約の条項のいずれかに違反した場合、甲(舞台製作会社)は、直ちになんらの通知及び催告なくして本契約の全部又は一部を解除できるとともに、乙及び出演者に対して、これらにより被った一切の損害及び損失(直接損害のみならず、間接損害及び逸失利益を含む)の賠償を請求することができる。


上記の記載は、やや舞台製作会社有利に書く場合のものではありますが、だいたいこういったことが舞台や映画の出演契約書には規定されております。ですので、こういった損害賠償に関する規定が一切ない契約書というのは、かなり珍しいです。一般的な弁護士等の法律家が作った契約書であれば、損害賠償に関する規定がない契約書というものは通常あがってこない(作らない)と考えられます。



したがって、あくまで推測ではありますが、今回、舞台製作会社と土屋アンナさんの所属プロダクションとの間で交わされた出演契約書は、おそらく舞台製作会社が法律家等を通さずに自分たちで何らかの出演契約書の雛形等を参考に作った契約書なのではないかと考えられます。



それでは、損害賠償条項が契約書に規定されていないと損害賠償をすることができないかというとそうではなく、その場合、今回の舞台製作会社の主張にもあるとおり、契約に基づく債務を契約締結相手である土屋アンナさんの所属プロダクションが履行しなかった(稽古参加義務等の債務不履行)として、損害賠償を請求するということになります。いわゆる債務不履行責任を根拠とする損害賠償請求ということになります。このあたりのことをより考察していくとなると、今回の出演契約書が請負契約であるのか、またそうであるとしたら請負人としての責任はどのようなものがあるのかといったことを含めて考察する必要がありますので、また機会があれば別の記事でそれは考察等してみたいとは思います。



これから訴訟になっていくなかで、損害賠償請求が認められるのか、また認められるとしたらどの程度の金額なのかといったことが争われていくと思いますが、また本件についてはこれからも情報等が入り次第、考察等してみたいと思います。