エンタメ契約の世界

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土屋アンナさんの件から書籍著作物を二次利用する場合について考える

書籍著作物を二次利用する場合の処理


さて、前回の「土屋アンナさんの件から出版契約について考える」では、土屋アンナさんの舞台降板騒動の件から、出版社と著作者との間で交わされる出版契約というものを、二次利用の処理に特に重きを置いて考えてみました。前回の内容をまとめますと。



  • 書籍著作物の二次利用は、一般的には、著作者と出版社との間で交わされる出版契約において、その処理等が出版社に委任されている。
  • 委任の度合いは出版契約によってマチマチである(出版社にかなりの権限が委任されている場合もあれば、都度著作者の承諾を得る必要がある場合もある)。


それでは、実際に委任された権限に基づき、出版社が書籍著作物の二次利用について交渉や許諾をする場合の流れについて、今回の土屋アンナさん舞台降板騒動の件を通して考えてみたいと思います。


通常、出版社を通して発行されている書籍著作物を映画化や舞台化等を目的として二次利用したいと考える場合、その出版社に話しをもっていきます。出版社は、著作者との出版契約により委任された権限に基づき、二次利用を希望する制作会社等と二次利用に関する条件等を交渉します。この交渉開始に先立って、出版社は予め著作者に確認をとる場合もあります。「こういう二次利用の話がきているんだけど、どう?」といった具合です。このように著作者に配慮して、予め著作者の意向を聞いたうえで、二次利用の交渉を行ってくれる出版社もありますし、著作者に確認を得ずに、どんどん話しを進める場合もあります。このあたりは各出版社のスタンス、話が持ちかけられた二次利用の内容、著作者の状況によって異なってくるとは思います。


今回の土屋アンナさん舞台降板騒動の件については、舞台「誓い~奇跡のシンガー~」の原作著作物(原案という表現も散見されておりますが、ここでは原作という表現で統一させて頂きます)である「日本一ヘタな歌手」の著作者「濱田朝美」さんは、ブログで正式な許可をしていないという旨を記載しております。しかし、8月2日のニュースでは「台本の内容チェックを前提とした条件付き同意だった」という話しも出ております。


土屋アンナ舞台中止 原作者側が再反論 舞台許可は台本提示の条件付き
デイリースポーツ 8月2日(金)18時49分配信


これらの一連の流れを見ておりますと、著作者が直接許可をしたかどうかが争点になっておりますので、もしかすると、光文社と著作者の「濱田朝美」さんとの間の出版契約では、書籍著作物の二次利用の処理が光文社に委任されていないのではないかという疑問が生じます。もしくは、出版契約上、二次利用の処理が光文社に委任されているものの、実際の業務運用上、二次利用の交渉や契約締結等を光文社が行っていない(著作者に任せている)とも考えられます。


また、光文社は取材に対して「今般の舞台化につきましては関与しておりませんので、コメントは差し控えさせていただきます」と回答しております。


土屋アンナの公演中止騒動、どっちが正しい? 「稽古に来ない」vs「原作者の許可取ってない」
J-castニュース 2013/7/30 20:00


「関与していない」ということが事実であれば、今回の舞台化にあたって、交渉や契約締結といったことを光文社が一切行っていないということになります。このような、出版社が二次利用について一切関与しないというのは比較的珍しいケースです。



一般的には、出版社に二次利用に関する交渉や契約締結をする権限が委任されており、出版社はその権限に基づき、二次利用に関する契約の契約締結者になることが多いです。たとえば、ある原作小説を舞台化しようというような二次利用の場合、その舞台化を許諾する契約(原作使用契約書等)の契約当事者は、舞台化しようとする製作会社と、原作小説を発行している出版社との間で契約が取り交わされます。この契約の中で、二次利用料等も定められたりします。尚、二次利用に関する契約は、かっちりとした契約書を締結する場合もあれば、「同意書」といったスタイルの1枚ものの書面を取り交わすといった場合もあります。ただし、同意書というスタイルでも、最低限その中で二次利用料については定めたりします。


このような経緯を辿って二次利用に関する契約が締結され、二次利用料が出版社に支払われると、次に出版社はその二次利用料を著作者と分け合います。この出版社と著作者との分配率は、二次利用に関する契約が締結される前に、お互いに話し合って決めたりします。但し、予め分配率等が決められていたりする場合は、それに則って機械的に処理する場合もあります。



今回の舞台降板騒動の件の原作使用許諾についての疑問点

今回、光文社は「一切関与していない」というアナウンスを行っておりますので、これを信じるならば、書籍著作物「日本一ヘタな歌手」の舞台化は、著作者と製作者との間で全て交渉をしてきたということになろうかと思います。尚、製作会社の代表者である「甲斐智陽」氏は、ご自身のfacebookを通じて、著作者の濱田朝美さん側には代理人弁護士がいたということをおっしゃっているようです。



土屋アンナ主演舞台の製作代表、原作者の主張に反論「代理人の承認は濱田朝美の承認」
オリコン 7月31日(水)13時19分配信


さて、ここで疑問が生じます。これまで、二次利用について契約書面を取り交わしたという話しは出ておりませんが、通常、代理人弁護士が出てくるような事案であれば、二次利用に関する契約書面を取り交わすように話しを進めるはずではないかということです。



上記8月2日のニュースで「台本の内容チェックを前提とした条件付き同意だった」という話しが出てきましたが、そのような「条件付き同意」を契約書面化していないのか?という疑問が生じます。細かい当事者のやり取りがわかりませんので、もしかしたら代理人弁護士から契約書面が製作会社側に提出されていたのかもしれませんが、いずれにせよ、実際に契約書面は取り交わされなかったとみられます。代理人弁護士が出てきながら、契約書面なしに、二次利用の条件付き同意がなされるという事態もやや特殊であるように思います(代理人弁護士が出てこない比較的有効な関係であれば、口頭での約束のみというケースも見受けられます)。


また、もうひとつ疑問があるのは、今回の舞台化にあたって、著作者に支払われる二次利用料はどうなっていたのかということです。二次利用料に関する話はこれまで見受けられませんが、一般的には何らかの二次利用料が出版社又は著作者に支払われることが多いです。但し、二次利用によって元の原作書籍著作物の売り上げが増えることもあることから、二次利用料をなしとする場合もあります。


ちょっと長くなりましたので、ここまでにしますが、本件はまだ上記のようないくつかの疑問点がありますので、そうした疑問点を踏まえながら、今後の流れを見ていきたいと考えます。