エンタメ契約の世界

芸能、アニメ、ゲーム等のエンタメに関する契約について色々と書いているブログ。

原作二次利用等の契約書専門家としてセクシー田中さん(芦原先生)の件について思うこと

芦原妃名子先生による漫画「セクシー田中さん」が日本テレビでドラマ化され、2023年10月~12月に放送されておりましたが、そのテレビドラマの内容について、原作の改変という問題で大きく話題になっております。そうしたさなか、作者の芦原妃名子先生がお亡くなりになられるという、大変痛ましい事態まで生じるということになっているというのが今の状況です。


この問題を巡っては、様々な作家先生や法律専門家等が意見を述べられております。



私自身、契約書業務を専門に取り扱う行政書士として、これまで多くの漫画等の原作ものの二次利用についての契約書の作成やチェック修正対応といったものを行ってきました。そうした経験から今回の問題について、色々と思うことを書かせて頂きます。


原作利用契約の実態

まず、漫画等の原作ものを二次利用する場合、必ず「原作利用許諾契約書」といった内容の契約書を取り交わします。通常は、テレビドラマ化の場合はテレビ局(又は制作会社等)と、その漫画等の原作を出版する出版社との間で契約を締結します(Web漫画等の場合は、出版社ではなく作家さんが直接契約当事者になる場合もあります)。


原作利用許諾契約は、ざっくり言えば原作をテレビドラマ化することの許諾(それに伴うDVD化であったりウェブ配信であったりの許諾)をし、許諾料をテレビ局(又は制作会社等)が出版社に対し支払うといった内容です。その中で、いわゆる「クオリティ・コントロール」と呼ばれる、作家による監修的な条項を盛り込むことが多いです。


この「クオリティ・コントロール」条項が、まさに今回問題になっている原作の改変といったところを防ぐための条項になります。よって、この「クオリティ・コントロール」条項の内容が極めて重要です。実際に原作利用許諾契約を締結する際に、この内容で綱引きが生じることは多いです。


なぜなら、利用する側のテレビ局(又は制作会社等)からすれば、できるだけ自由に原作を利用したいので、クオリティ・コントロール条項において作家さん有利にあまりしたくないという意向が働きやすいです。他方、作家さん側からすれば、このクオリティ・コントロール条項をしっかりしたものにしないと、原作の改変等を申し出る機会が失われてしまうので、この条項をできるだけ作家さんの意を反映した内容にしたいと考えます。


よって、綱引きのようになり、何度か契約書の加筆修正が行われることがあるというのが実態です。


原作の改変を防ぐためのやり取り

実際問題として、原作のパワー(売上や地名度)が大きければ作家さんの主張を通しやすいですが、現実問題として原作のパワー(売上や地名度)があまりない場合は、作家さんの主張を通すのが難しくなってきます。今回の騒動でいくらか見受けましたが、テレビ局プロデューサーの中には、「使ってやってるんだ」「こちらが使えば原作の売上も上がるでしょ」といった姿勢をもつようなお方も少数ではありますがおられます。そういう場合はかなり作家さんの主張を通すのが難しくなってきます。


それでも、少なくとも私は、できるだけ作家さんの意向を汲んでギリギリまで作家さんの意を契約書に反映できるよう粘ります。本当にギリギリまで、もうこれ以上主張すると決裂する寸前というところまで粘ります。そうして可能な限り、作家さんの意向を契約書に反映できるようにします。


なぜなら、契約書の段階で作家さんの意向が反映されておらず、クオリティ・コントロール条項がテレビ局側にだいぶ有利になってしまうと、もう契約を締結した後に作家さんが原作の改変等について物申すことがかなり難しくなってきてしまうからです。


著作者人格権を行使すればよいではないかというご意見もあろうかと存じますが、契約書の中で「著作者人格権の不行使」をねじ込まれてしまうようなこともあります。そうなると主張が出来なくなってしまいます。


そういった最悪の事態を防ぐために、原作利用許諾契約書を締結する段階で、作家さんが原作の改変に対してちゃんと物申せる内容にしなければならないですし、少なくとも私が関わってきた事案ではそうしてきました。そうした契約書にするというのは、実際問題として相当骨が折れることもあります。もう何度もやり取りをして、嫌な思いをすることもあります(守秘義務もございますのでこれ以上具体的なことは申せませんが)。

契約専門家として思うこと

今回の事態を受けて、我々契約書の作成やチェック修正を行う専門家として、今まで以上に作家さんに寄り添う姿勢が必要ではないかと思いました。作家さんは孤独な面があり、他の作家さんの事例をあまりご存知でないこともありますので、テレビ局側から厳しいことを言われますと、自分がおかしな主張をしているのではないか等と思ってしまうこともあります。


そうした時に、そうした契約実務を多数手がけている我ら専門家が、作家さんに寄り添い一緒に戦っていくという姿勢が必要ではないでしょうか。少なくとも私はそう思います。ちょうど今も、私はある原作漫画の深夜ドラマ化という原作利用許諾契約書の対応をしているところですが、今回の芦名先生の事態を受けて、今まで以上に作家さんと一緒に戦っていくという姿勢で臨まなければならないと思いました。


長々となりましたが、以上が、今私が思う率直な気持ちです。