エンタメ契約の世界

芸能、アニメ、ゲーム等のエンタメに関する契約について色々と書いているブログ。

稽古参加義務について 舞台出演契約書

舞台や映画に出演する際の契約書


さて、これまで土屋アンナさんの舞台降板騒動の件については、舞台の原作となる書籍著作物を二次利用することについて、出版契約書や原作使用契約書を通じて諸々考察をしてきました。




これまでは、原作の書籍著作物のことについての契約関係を中心に考察してきましたが、本件は、もう一つ、土屋アンナさんが舞台に出演することに関する契約という観点から契約関係を考えることができます。


映画や舞台に出演する俳優及び女優のうち、主演級の俳優及び女優については、出演契約書というものを舞台や映画の製作会社又はプロデューサー等と取り交わすことが比較的一般的ではあります(端役ですとあまり出演契約書というものは取り交わさない)。尚、この出演契約書は、俳優や女優が直接舞台や映画の製作会社又はプロデューサー等と契約を締結するわけではありません。俳優や女優が所属するプロダクションと、映画の製作会社又はプロデューサー等が契約を締結する形になります。


したがって、本件舞台「誓い~奇跡のシンガー~」に土屋アンナさんが出演することに関する契約は、土屋アンナさんの所属プロダクション(有限会社モデリングオフィス アマ)と舞台の製作会社との間で締結されていたと考えられます。



稽古参加義務は契約書に盛り込まれるのか


さて、その土屋アンナさんの舞台出演契約の内容について、稽古参加義務が契約書に記載されていたというニュースがありました。



土屋アンナと稽古参加義務の“契約書”…製作側の関係者が証言
デイリースポーツ 8月7日(水)8時39分配信


女優・土屋アンナ(29)の初主演舞台が中止になった問題で、製作側の関係者は6日、デイリースポーツの取材に対して、土屋側との出演交渉時に舞台稽古参加の義務を記した契約書を交わしていたと証言した。


このようなニュースに対して、ネット上では、「稽古参加義務なんて契約書に盛り込まれるの?」といった疑問の意見やコメントがいくつか見受けられましたが、結論からいうと、こういった稽古参加義務に関する条項は、このような出演契約書に盛り込まれることが実際にあります。厳密には、契約の当事者が俳優・女優ではなく、その所属プロダクションですので、「乙(プロダクション)は、甲(製作会社)が指示する本件舞台の稽古及び打ち合わせ等に、本件出演者(出演俳優・女優)を参加させるものとする」といった具合に規定されます。但し、明確に「稽古」とは記載されずに、単に「打ち合わせ等」と記載されている場合もありますので、そのような場合は「打ち合わせ等」に稽古が含まれているのか解釈が分かれるところではあります


通常、稽古の回数や日時といった具体的なことまでは契約書に記載しませんが、上記のように、稽古及び打ち合わせ等に参加するようにといった具合で、さらっと稽古参加義務が契約書に記載されたりします。映画の出演契約書でも、「乙(プロダクション)は、甲(製作会社)から指示がある場合は、本件映画に関する打ち合わせ、リハーサル及びアフレコ等に、本件出演者(出演俳優・女優)を参加させる」といった具合に、本番の出演以外の打ち合わせ等への参加義務が規定されたりします。



このような稽古参加義務は、出演契約書の条項の1つに過ぎず、また比較的さらっと規定されていたりするので見落としがちなのですが、これに違反すれば俳優や女優が所属するプロダクション側の債務不履行責任が生じます。


とはいえ、仮に稽古参加義務に違反したとして訴訟になった場合、プロダクション側としては、稽古に参加しないことの合理的・正当な理由があれば、債務不履行責任を問われない又は軽減される可能性もあるのではないかと考えます。


本件については、当ブログでは、これまで書籍著作物の二次利用という観点で考察してきましたが、土屋アンナさんの出演契約という観点でも今後もう少し考察してみたいとは思います。