エンタメ契約の世界

芸能、アニメ、ゲーム等のエンタメに関する契約について色々と書いているブログ。

専門家からみた吉本興業の契約書問題

私は、行政書士として契約書の作成やリーガルチェック修正等を専門的に取り扱い、日々そうした業務を行っております。その中で、タレント等の芸能人と芸能プロダクションとの間で締結するいわゆる所属契約書(専属マネジメント契約書)というものもこれまで多数作成等してきました。



これまでの対応件数は、延べ100件近くにのぼっているといっても過言ではないと思います(作成のみならず、リーガルチェックや修正対応、契約書の雛型提供対応を含む)。よってこの分野ではある種の専門家と呼べる立場にいるものと自負しており、そうした専門家として昨今世間をにぎわせている吉本興業さんの契約書問題について、今回このブログで少し書いてみようと思いました。



【率直な感想】


まず今回の吉本興業さんの契約書問題、すなわち吉本興業さんが所属タレントと契約書を締結していないという報道がなされたとき、最初に思ったのは、「ああやっぱりそうだったのか」です。


私自身、これまで多数のタレント等と芸能プロダクション間の所属契約書(専属マネジメント契約書)を作ってきましたが、そのご依頼主はほとんどが芸能プロダクション側です。よってそうした芸能プロダクションのお客様とお打合せ等のやり取りをする際に、そうした「吉本興業さんは所属タレントと契約書を締結していないらしい」というのはなんとなく耳に入っていました(既に報道されて、吉本興業さんも認めている事実であるため守秘義務等には抵触しないものとして書いております)。ただ実際に確かめたこともございませんし、また私自身、吉本興業さんから何らかのお仕事のご依頼を頂いたことはございません。



ですので、最初に吉本興業さんの契約書問題が報道されたときは、上記のとおり「ああやっぱりそうだったのか」となってしまったわけです。噂通りだったのかと。



ただ、吉本興業さんは非常に大きな芸能プロダクションであり、所属タレントも非常に多数おり、一般的にも知られている芸能プロダクションなわけです。ですので、私は、全員とは契約書を締結していないとしても、ある程度有名な方々(それこそ今回特に契約書問題に言及されていた加藤浩次さん等)は少なくとも契約書を締結しているんじゃないかなと。あまり知られていない若手の芸人さんが契約書を締結していない、という感じなんじゃないかなあと報道が出る前は思っていました。


ただ今回の報道をきっかけに分かったことととしては、加藤浩次さんクラスですら契約書を締結していないという事実です。噂に聞いていたとはいえ、やはり多少の驚きはありました。



【契約書は普通は締結しているものなのか】



基本的には、タレントさん等の芸能人が芸能プロダクションに所属するにあたって、所属契約書(専属マネジメント契約書)を締結します。この際の契約書のタイトルはあまり統一されておらず、「所属契約書」「タレント契約書」「専属マネジメント契約書」「専属契約書」「マネジメント業務委任契約書」などと結構バラバラです。ただ、タイトルはバラバラでも内容はどれもだいたい同じです。ちなみにおそらく「専属マネジメント契約書」というタイトルにするのが一番割合としては多いように見受けます。次いで「所属契約書」でしょうか。ただ案外「マネジメント業務委任契約書」というような「委任系」の文言を使う場合も見受けます。



タレントが芸能プロダクションに所属するにあたっては、そうした所属契約書(専属マネジメント契約書)を締結するのが一般的なわけです。これはプロダクションの規模の大きさに関わらず、そうです。ただ、あくまで傾向的な話としては、歴史のある芸能プロダクションの方が、意外と契約書の内容は簡素だったりすることがあります(2ページぐらいだったり)。あくまで時折そういうプロダクションがあるというお話しであって、割合としてはきっちりとした契約書を作って締結している芸能プロダクションの方が多いですけど。



比較的昔の芸能プロダクションさんの中には、だいぶ前に簡素な契約書を作って、そのままあまり契約書の内容を改定等せずに今日に至っているような場合もあって、そうした場合に上記のように、やや簡素な契約書になっていたりすることもあります。



ただ契約書の内容が簡素であろうとそうでなかろうと、割合としては、タレント等の芸能人としっかりと契約書を締結している場合がほとんどです。基本ですね。ですので、吉本興業さんのように、所属タレントとほとんど契約書を締結していないというのは、極めて珍しいケースと言えます(だいぶ昔はそういうところもあったかもしれませんが、上述のように近年はだいたい契約書を締結しています)。



所属タレントと契約書を締結しないとどのような問題があるのかということについては、次回に書きたいと思います。
それと、タレント等の所属契約書(専属マネジメント契約書)がどういったものなのかということについては、私の事務所サイトの詳細解説ページ
keiyakusho-sakusei.jp
で色々と解説や説明をしておりますので、もしよろしければご参考頂ければと存じます。