エンタメ契約の世界

芸能、アニメ、ゲーム等のエンタメに関する契約について色々と書いているブログ。

二次利用作品に対する原作者の意向反映について 原作使用契約書

二次利用に対して原作者はどこまで主張できるのか

これまで、土屋アンナさんの舞台降板騒動について、二つほど記事を書きました。



書籍著作物を二次利用することについての契約上の処理及び問題等を中心にこれまで考察をしてきました。今回は、原作者の意向というものを二次利用作品に何らかの形で反映することはできるのかということを、原作使用契約という契約を通して考えてみたいと思います。


まず、書籍著作物を舞台化・映画化等することは、二次利用となります。このような二次利用においては、何らかの契約が二次利用者と原作者(又は出版社)との間で締結されることが通常です。ここでは、舞台化を例にとって考えてみます。


書籍著作物を舞台化する場合は、舞台製作会社と原作者(又は出版社)との間で原作使用契約といった契約が締結されます。但し、原作者が出版社との契約(出版契約等)により、二次利用に関する処理を出版社に委任しているならば、出版社が舞台製作会社と契約を締結します。比較的大手の出版社ですと、だいたい出版社が舞台製作会社と契約を締結します。


さて、この舞台化に伴い締結される原作使用契約においては、原作者の意向を二次利用作品に反映するための、「クリエイティブコントロール」と呼ばれる条項が設けられることが多いです。映画化を目的とする原作使用契約ですと、このようなクリエイティブコントロール条項は比較的一般的に見受けられます。但し、舞台化は映画化以上に原作書籍著作物を脚色することも多いことから、映画化よりも緩いクリエイティブコントロールになることも見受けられます。


このクリエイティブコントロール条項では、主に次のようなことを定めます。

  • 脚本(台本)の作成過程において、原作者がその内容の提示を求めた場合はこれに応じること
  • 脚本(台本)が完成したときは原作者に提示すること
  • 脚本(台本)の内容に対して、原作者の意見がある場合はそれを最大限尊重すること


全ての原作使用契約において、上記のようなことが規定されているわけではありません。しかし、こういったクリエイティブコントロール条項を何らかの形で規定することは、その内容が原作者よりであるか舞台製作会社よりであるかの程度の差はあれど、よく見受けられるところではあります。


さて、上記に列挙したクリエイティブコントロール条項で主に規定される内容をみて思うのは、今回の土屋アンナさん舞台降板騒動において、いずれも著作者の濱田朝美さんが主張している内容そのものであるということです。書籍著作物を原作とした舞台又は映画等を製作する場合において、上記のようなクリエイティブコントロール条項が契約書によく規定されるという実情を考慮すると、今回の土屋アンナさん舞台降板騒動において著作者が主張されている内容は、さほど不合理なものではなく、むしろ一般的な内容であるともいえます。


著作者人格権という観点から考える


「台本の内容チェックを前提とした条件付き同意だった」という話しも出てきましたが、こうした条件は、通常、契約書においてクリエイティブコントロール条項という形で反映されて客観的な条件として認定されるものとなります。但し、契約書という形で取り交わしていなくても、著作者には著作者人格権という権利がありますので、その権利に基づき二次利用に伴う改変等に対して異を唱えることができるわけです。


この著作者人格権というものは、権利譲渡することのできない権利になりますので、著作者に一身専属的に権利が帰属します。出版社に譲渡することもできません。したがって、書籍著作物の著作者人格権を主張することができるのは著作者のみです。



先ほど取り上げたクリエイティブコントロール条項は、著作者が異に反するような改変等が舞台製作会社等によりされないようにという意味で規定されている反面、このクリエイティブコントロール条項に規定されている内容を超えて、著作者が著作者人格権を行使することを制約するという意味も含まれております。実際問題、原作使用契約書において、後者の内容を反映した著作者人格権の不行使という規定を盛り込むこともよくあります。


原作使用契約書を取り交わさない場合、著作者による著作者人格権の行使に関するなんらの制約がないため、二次利用作品に対する著作者(原作者)の権限はむしろ強くなると考えられます。したがって、著作者の権限が強いと、舞台製作会社等は二次利用作品を制作する上でやりづらい部分があるため、原作使用契約において、著作者による著作者人格権の行使に対してなんらかの制約を設定することになるのです。


さて、色々と書いてきて長くなってきましたので、今回はここまでにします。土屋アンナさんの舞台降板騒動については、色々と契約上の観点から見て考えさせられる題材ではありますので、今後も続報等が入り次第、またこのブログで考察等することもあろうかと思います。